音が「降ってくる」ということについてと頭の中の基準周波数という話

皆さんは「音が降ってくる」といった経験はあるだろうか。しばしば、人知を超えた天才を表す時に使う表現として耳にすることはあるかもしれないが、実際にそういった状態を体験する人はあまり多くないかもしれない。しかし、文章は多かれ少なかれ書いたことがあるはずだ。そして、その時に「文章が降ってくる」という経験はないだろうか?まるで自動書記のようにスラスラとなんの苦もなくタイピングできる感覚、「音が降ってくる」という経験を頻繁に体験することのある私からすると一番近いのは文章を書く時のそれである。そう、「降ってくる」ということは決して特別なことではないのだ。

音が降ってくる時は様々だ。リラックスしている時に多いのだろうか。シャワーを浴びた後、軽い運動をした後などはよくアイディアが出てくる気がする。そしてこの時、ギリシャの偉人が何か重大な問題を解決したかのように喜び勇んでDAWに向かい、いつものようにスケッチ用プロジェクトを作りNI Massiveを立ち上げてMIDIを打ち込み始める。なにしろ短期記憶が限られている私にとって鼻歌が消えるのは早い。急がなくてはいけない。

しかし、いざピアノロールにMIDIノートを置き実際に音を鳴らしてみると、頭の中の構造を書き出しているはずなのに違う音が鳴る。現前する音というのは強力でいとも簡単にイメージのなかの音を上書きしていく。あの音がほしい、でも鳴らないなんてことを繰り返しているとあっという間にあの素晴らしい名曲*1は霧散していく。ああ、なんということだろう!

そんな悲劇的な状況に陥る前に試してみることがある。シンセサイザーの基準周波数を上下してみることだ。通常、現代のDAWはA3ないしA4を440Hzとした十二平均律でチューニングされていること*2がほとんどだ。その基準を上げ下げしていくのだ。NI Massiveにはそれを周波数で指定する機能は付いていないので、Global Tuneという項目(fig.1)で440Hzからどれだけ上げ下げするかという割合を指定することになる。

 f:id:yosshibox:20170412115328p:plain

fig.1 : Massiveのインターフェス画面

 

私の話になるが、このGlobal Tuneという値を寝起きや昼は-0.08、体調が良い時、夜などは+0.08にすると前述の音がイメージと合わないといったようなことがすんなりと解決する時がある。

頭がプログラミングに向いていなかったりまともに計算式を考えるのが面倒な私のようなものぐさな人は適当な計算サイトを使うと良いだろう。なにより、車輪の再発明はダサい。*3

Global Tuneを-0.08するということはつまり8セント下げているということなので、"A=437.971Hz"ということになる。一方、+0.08の場合は"A=442.038Hz"ということになる。(fig.2)

丁度いいサイトを見つけたので貼っておく。

www.flutopedia.com

 

f:id:yosshibox:20170412115348p:plain

fig.2 : Pitch-to-Frequency Calculator

 

今朝は-0.08にセットしたらうまくいった。もしかすると、体調によって頭のなかで持っている基準周波数は変動するのかもしれない。だとすると、もはやA=440KHzなどという固定値で扱うのはナンセンスなのかもしれない。しかし、人間の感性に寄り添ったそういったDAWはまだ登場していないはずなので構造とあいまいなものの間でミュージシャンの苦悩は続きそうだ。早くMIDIノートを基準としてなんとなく整合性を取っている構造をやめて周波数で直接記述してほしい。でも、周波数で言われても「ミュージシャンだから分からない!」*4ということになるので表示する時はパースして音名で表示してほしい。ついでにタイム感も固定なのはこれまたナンセンスなのでこちらも誰かよろしくお願いします。もうずっと言っている話だけれども。

 

一方ロシアはFunky drummerをサンプリングした。

 

注釈が多いのは最近ゴースト・イン・ザ・シェル、実写攻殻を観てモヤっとしてしまったので原作漫画を一気読みした影響かと思います。

 

*1:大抵は取るに足らないものなのだが、たまに本当に名曲が紛れているので軽視できない。

*2:YAMAHA式、国際式でA3とするかA4とするかで違いがある。しかもなんと、FL Studioに至ってはA5だったりする!よっぽど負の数使いたくなかったのかな...

*3:カッコいいかダサいかはミュージシャンにとって非常に重要である。詳細は後述。

*4:プログラマーの美徳としては、怠惰・短気・傲慢などが有名だが、ミュージシャンの美徳を挙げるなら「結果がカッコよければ良い!」ということである。その点に於いてギター破壊パフォーマンス等も許容されうる。しかしダサかったらダメ。つまり過程は重要視されない。そしてなにより感性が大事なのだ。一見反知性的なように思えるが、音楽を作るという構造化し切れない得体のしれないものを扱うには学習された無意識的なもの、いわゆる直感などを使う方が精度が高く、高速なことに皆気づいているからの発言なのだろう。手法にこだわるあまり、最後まで分析的に扱うと気持ちも何もこもっていないポピュラー音楽としてはゴミのような音を作ってしまう結果になるので気をつけたい。